多分ここまで来るのに5年くらいかかってる。 短い。 直接的な描写はありませんが、情事を匂わせる表現があります。
隣から規則正しい間隔で寝息が聞こえ始めた頃、レーザー・フィストはゆっくり起き上がった。 猛烈に喉が渇く。 ここは標高が高いので、夜は特に冷えた。べたついた汗が、今になって寒さを伝える。 隣で眠るシャーリンはぞっとするほど白い首筋を晒していた。始めはあまりの白さに、死んでいるのではないかと思い、恐々横たわる体に触れた。幸い、それはきちんと熱を放って、レーザー・フィストの左手を温めた。 熱がないのは彼の右手のほうである。銀色の金属が嵌められたそこは、どれだけ体が昂ろうと冷たいままだ。その冷たさが触れるたび、女の白い体は魚のように跳ねた。それを見るのは嫌いでなかったが、恐らく彼女に言うと蹴り飛ばされそうで、黙っていた。 終わったあとはふたりもぼんやりと天井を見つめたまま、何も話さなかった。そのうちどちらかが一方が寝てしまい、その寝息を聞きながらもうひとりも眠りに落ちる。 今日はたまたまレーザー・フィストが起きていた。 寝台を降りて、床に散らばった服を探すうちに、寝息はいつの間にか消えていた。振り向くと、黒い瞳と目が合った。 「起こしたか」 「お前のせいじゃないよ」 シャーリンは気だるげに髪をかき上げた。 「ひとが動く気配があると目を覚ます。昔からだから」 十六歳で家を出て、ひとりで生きてきた彼女は、気を抜くということを知らない。それがたとえ自分の部屋であっても。 痛ましいとは思う。しかしレーザー・フィストにできることはなにもない。十六歳の彼女に会いに行くことはできないし、今更腕を広げて慰めても、どれほどの意味を持つかわからない。そもそも彼女は慰めを必要としていないのではないか。痛ましいと思うこと自体、傲慢で残酷な行為かもしれない。 例えば、家にひとり取り残された七歳の自分に会えたとして、はたしてかける言葉が見つかるだろうか。 「水を持って来る」 「うん」 「いるか?」 「お願い」 明かりを消した部屋の中で、白い体だけがぼんやりと浮かび上がって見えた。
シャワールームから出ると、シャーリンはすでに眠っていた。 ベッドが固いと散々ごねていたくせに、彼女はシーツに包まって、静かに寝息を立てている。 ホテルの部屋を取っていてよかったと思う。着飾った人々の波に揉まれ、すっかり疲れ果ててしまった。こういう場所は得意ではない。 黒いドレスに身を包んだシャーリンは、一際美しく見えた。背中が大きく開き、皮膚を無防備に晒している。白いそれは吊るされた照明の光を反射して、ちかちかと目を刺した。 レーザー・フィストはシャーリンの前髪をかき上げてやった。扉の閉まる音でも、スリッパが床を弾く間の抜けた音でも、もう彼女の眠りを妨げることはない。