33才×31才
姿が見えた瞬間駆け出そうとしたが、思い留まった。この前そうやって駆け寄っていって、「犬みたいだ」と笑われたのを思い出したからだ。なるべくむすりとした表情で、悠然と彼のところへ歩いていく。 「どうした坊や」 彼はいつものように笑って迎えてくれた。「ご機嫌斜めか?」 「坊やじゃない」 「坊やだろ」 「坊やじゃない。餓鬼扱いするな!」 子どもみたいに癇癪を起こして、これじゃ本当に「坊や」だ。彼は少し驚いたように目を見開いたが、またすぐに笑顔に戻った。 「悪かったよ。久しぶりに会えたんだから、機嫌を直してくれ」 ほら、と彼が手を伸ばす。自分のものよりずっと細い腕、細い体。もたれかかったら壊れてしまいそうだ。守ってやらないと、と思うが、頭が自然と垂れていた。 長い指が髪を撫でる。最初は優しく、段々とかき乱すように。肩に頭を置き、腰に手を回して引き寄せた。こちらのほうが身長は高く、体重も重いので、潰してしまわないよう、慎重に寄りかかる。香水と、少しだけ汗の混じった匂いがした。大人の匂い。二才しか離れていないはずなのに、彼はずっと大人びて見えた。永遠に近づけない気がした。 「映画でも行こうか? それとも飯にしようか?」 「この間のレストランに行きたい」 「わかった。まずは腹ごしらえして、それからどこに行くか考えよう」 ぎゅっと彼の手を握る。また子どもみたいだと笑われそうだけれど、そんなことどうでもよかった。