ネフェドヴォ後のヴォルティリ。
戻ったのは、クラウス・イェーガーただひとりだった。
「そうですか」
そう呟いた声に、動揺や震えはない。仲間の死をあっさり飲み込めたことに、ティーリケ自身がいちばん驚いた。
まずは戦死者の報告。失った分の砲弾や装甲車を補充し、部隊を立て直さなければならない。やるべきことは山ほどあった。
野戦病院に担ぎ込まれたイェーガーは、その後順調に回復していた。しかし、心の整理が必要だろうと、ティーリケは2日待ってから、彼を見舞った。
「ご加減は」
「上々だ」
イェーガーは未だ傷の残る顔を引き攣らせ、笑った。
軽く報告を済ませてから、ティーリケは言い辛そうに口を開く。
「遺留品ですが」
イェーガーが顔を上げる。あの雪原を思い出しているのだろうか。その顔を、ティーリケはまともに見ることができなかった。
「どう処理すればよいのかと聞かれて」
「遺留品?」
「あの場所に残っていたものです」
ティーリケはリストを読み上げた。
「ガウン、眼鏡、聖書、ペンダントは3つ、スプーン、缶切り、日記、それからヴァイオリン」
「それはヴォルフのものだ」
イェーガーの目が僅かに輝く。