甘々なマカジャマ。

「お前は本当は誰でもいいくせに」  年下の恋人はなかなか機嫌を損ねやすい。こういうとき、きちんと話しておかないとあとから面倒なことになる。マーカスは読んでいた本を置いて、彼と向き合った。 「急にどうした?」 「あの間抜けズラの殺し屋ともヤれるんだろ、お前は」  あんまりな言い方に、思わず笑ってしまった。 「ジョンはただの友人だって言ったじゃないか」  恋人は納得していない表情でマーカスを睨む。端正な顔立ちの彼が無表情で鋭い視線を向けると、何倍にも増して冷たい印象を受けるが、単に拗ねているだけだということを、これまでの経験からマーカスは学んだ。 「確かに俺は執念深いほうじゃないし、君にも淡白だって怒られてばかりだし、『俺がいちばんに愛しているのは君ではない』と言われても仕方がない」  でも、とマーカスは続ける。 「この世界で最も君を愛しているのは俺だという自信はある」  呆気にとられる恋人の目を見つめて、マーカスは言った。 「君のためなら死んでもいい」 「馬鹿が」  恋人は目を逸して、それから呟くように言った。 「簡単に死ぬなんて言うな」  それが思った以上に寂しい響きだったので、マーカスは恋人の手に自分の手を重ねた。 「怒った?」 「べつに」 「うん、悪かった。今日は君の好きなものを作ってあげよう」  節くれだった手を撫でながら、でもまだ死ぬには惜しいと思う。