短いお話の詰め合わせ。

子犬

駐屯地の金網のすぐそばに転がる埃まみれの茶色い毛玉を見つけたとき、ティーリケは偶然にもひとりだった。いつもはイェーガーの隣に付き添っているが、彼は大事な会議があるとかで、残されたティーリケは所在なさげに歩き回っていた。

毛玉の正体はすぐにわかった。どこから迷い込んだのか小さな子犬が、彼の足元にまとわりついてくる。

ティーリケは薄汚れた子犬を見て固まった。動物が苦手なわけじゃない。動物たちが彼を避けるのだ。なぜだかわからないが昔から、ティーリケは幼い頃から、動物にまったく好かれなかった。猫を抱けば引っ掻かれ、犬を撫でれば噛まれる。おかげで生家である広い屋敷でひとり、小さな彼は遊んだ。

「こら」

困惑するティーリケをよそに、子犬は無邪気にじゃれついてくる。その姿が、顔を合わせるたびにきゃんきゃん煩いくせに、しつこくつきまとってくる大きな背中と重なった。

「そんなに近づくと踏んでしまう」

ティーリケは跪き、おずおずと手を伸ばして、子犬を撫でた。

「こんなところにいると危ないぞ、伍長」

伍長、ハイン伍長。確か名は。

「ヴォルフ」

子犬はきゃんとひとつ鳴いた。

その日、ヴォルフは大変機嫌がよかった。鼻歌でも歌いだしてしまいそうな勢いで戦車に乗り込み、演習に臨む。普段から陽気な男ではあるが、今日はいつも以上であると、周りの仲間たちも訝しんだ。

「随分楽しそうだな」

部下の士気が高いことは、イェーガーにとってよいことではあるが、特に理由も思い浮かばず、ついに彼はヴォルフに尋ねた。

「俺、見ちゃったんですよね」

ヴォルフは満面の笑みを浮かべ、幸せを隠そうともしない。

「最近来た将校さん、犬の面倒見てるみたいで」