幽霊のヴォルフと、彼が見えるようになってしまったティーリケの話。 〇リックという漫画のとあるお話と、TLから着想を得た、独組のわちゃわちゃです。 CP要素はなし。

その男は、突然ティーリケの前に現れた。いつものように支度を終え、執務室の扉を開けると、そこに上官の姿はなく、代わりに見知らぬ男がひとり立っていた。長身の彼は、口を開けてぽかんとしているティーリケに気がつくと、人懐っこい笑みを浮かべて近づいてきた。

「あんたもしかして、俺が見えてるの?」

ヴォルフ・ハイン。階級は伍長。上官の元部下。11月27日、ネフェドヴォで死んだ。

ハインは、自分が見える人間に初めて会ったと、大いにはしゃいだ。

「誰かと話すのは久しぶりだ」

彼は「あんたのことについても教えてくれ」とせがんだ。仕方なく、ティーリケはこの正体不明の幽霊にあれこれ話してやることにした。

「クラウス・イェーガー大佐の副官だ」

「大佐? あのひと大佐になったの?」

「そうだ」

「へえ、さすがだなあ」

ハインはまるで自分のことのように誇らしげだった。

とにかく、こんなやつに執務室内はおろか、この収容所を彷徨かれると困る。身体が大きいだけで無害そうな男にも見えるが、相手はこの世のものではない、常識など通用しない存在である。イェーガーに何かあってからでは遅い。ティーリケは一刻も早く、この陽気な幽霊を追い出す方法を見つけようと決めた。

「大丈夫か、ティーリケ。顔色悪いぞ」

同僚たちの心配そうな声に、ティーリケはなんとか微笑んで返した。

「ああ、ちょっと寝不足なだけだ」

「ならいいけど」

「幽霊でも見たような顔だ」

彼らは勿論冗談のつもりだろうが、ティーリケは思わずぴくりと肩を揺らした。