天使なんかになるなよって言わせたかっただけ

「天使になんてならなくていいから、どこにも行くなよ」  マーヴェリックの言葉に、金髪の男は振り返る。 「なんだって?」 「天使なんて、柄じゃないだろ」  男は肩をすくめる。  守護天使。いつ頃からそう呼ばれるようになったのか。マーヴェリックが問題を起こすたびに、尻ぬぐいをさせれらる。彼がいなければとうの昔に除隊となっているか、そうでなければ今頃、僻地でつまらない仕事でも押しつけられていただろう。 「天使になったら誰が始末書の手伝いをしてくれるんだ」 「なら追いかければいい」 「無理だよ。彼らの翼はとんでもなく早い」 「見たことあるのか」 「ないけど、きっとそうだ」  男はふっと表情を柔らかくした。数少ない人間だけが見ることのできる顔だった。 「お前ならすぐに追いつけるさ」  天使だなんて、男の元相棒が聞いたら、きっと笑い飛ばすに違いない。天使だって? 世界一似合わない通り名だ。そいつらはきっと、あいつのことをろくに知らないんだ。普段のあいつを見たら、「天使」なんてお上品なもんじゃないとわかるはずだ……。  だが、マーヴェリックは男の二つ名を聞いて妙に納得してしまった。そして恐怖した。自分という存在そのものが、男を遠くへ押しやろうとしている気がした。 「天使になんてならなくていいから、どこにも行くなよ」  男は何も言わない。トム・カザンスキーはそういう男だ。  マーヴェリックもそのことはよくわかっているので、始めから返事は期待していない。