ヴォルティリヴォルのスケートパロ。
湧き上がる歓声と会場を揺らすほどの拍手。この瞬間がヴォルフは好きだ。何百時間とかけた練習も、軋む筋肉も、潰れた血豆も、すべてが報われる。
液晶画面に映された点数が、また会場を沸かせる。
「先輩!」
ヴォルフはこの世で最も尊敬する選手に駆け寄った。蒼い瞳が優しく細められる。
「見てました?」
「勿論」
クラウスの体をヴォルフは軽々と抱き上げた。嬉しくて、つい止められなかった。
「やりましたよ俺! 完璧だったでしょ!」
「わかった、わかったから下ろしてくれ……」
大きな犬のようにじゃれつくヴォルフは、何度もクラウスの頬にキスをする。
他の選手たちも、口々に祝福の言葉を投げる。彼らはライバルであり、志を共にする仲間だった。
今日は本当に素晴らし日だ。興奮冷めやらぬまま、ヴォルフは詰め寄る取材陣のもとへ向かう。
リビングへ通じる扉を開ける。ソファに座り、本を読んでいたティーリケは、ヴォルフをちらりと見上げた。
「夕食は」
「まだだ」
「冷蔵庫に残り物がある」
「了解」