マカジャマ。モンペ同士。

ぱんっと軽い音が響いた。 「ああ」  自分の声が妙にはっきりと聞こえる。ジャーマンはわざとらしくため息をついた。隣の男に聞かせるために。彼は青い目でじっと、真正面に座る人だったものを見つめている。 「おい」  ジャーマンは堪らず、声をかける。彼の隣に立つ青い目の男は、彼の用心棒であり、今は彼の恋人という立場に収まっている。当然、それを公にしてはいない。だから今回のように、何も知らない恐れ知らずの人間がジャーマンに手を伸ばそうとすると、死の天使と恐れられたこの男は目にも止まらぬ速さで銃を抜き、たった一発、頭を撃ち抜いた。 「誰彼かまわず殺していくな」  呆れた顔でもう一度ため息をつき、ジャーマンは男に手を伸ばした。 「せっかく仕立てたスーツが汚れる」

栗色の、少し長い髪が揺れているのが見える。微かに浮かべる笑みはあくまで優しく、押せば崩れ落ちそうな印象を受ける。あれが殺し屋? ウォールストリートを朝刊片手に歩いていてもなんら違和感がない。 「どこで見つけてきたんだ?」  常時無表情で何を考えているのか皆目見当もつかない飼い主は、それでも僅かに得気な顔で答える。 「まあ、つてでな」 「腕も立つのか」 「それなりに」 「目立たないしいいじゃないか」  男はすらりとした体格で、若い頃はさぞかし美青年だっただろう。 「あれなら夜の相手もしてくれそうだな。なあ、いくら払えば譲ってくれる?」  ふっと飼い主から笑みが消えた。 「悪いが荷物は車に置いてきたんだ」 「ああ、それじゃあ取ってこさせようか」 「それは申し訳ない。一緒に駐車場まで行こう。何、すぐ済むさ」  そう言って彼は立ち上がる。誰にも気づかれないよう、腰のホルスターに手をかけながら。