「罪に溺れる」のモブ視点。暴力描写有り。

帝国の馬鹿犬どもに難癖をつけられ追われているところに、あの方はやって来た。衣服と街の喧騒の中にあっても穢れを知らない美しさから、一瞬で僧侶だとわかった。同時に彼の気高さも。瞳は何も映してないようだが、宝玉のように透き通った青。  生きているうちにこんな高貴な方に出会えるなんて!  我々は思わず駆け寄り、そして気がついた。あの方の隣に、清廉潔白からは程遠い、薄汚れた獣のような男がいることに。  何故、あの方がこのような男を?  あの方に相応しない。こんな、汚らしい、野蛮な奴は。

彼らとはすぐに再会できた。ここ何日か、動向を見張っていただけある。今度は我々が手を差し伸べる番だった。  同行者の傷の手当てをすると言うと、あの方は喜んで屋敷に来てくれた。そこからの日々は、まさに輝くようだった。共に祈り、共に食事をし、あの方のそばにいる生活は幸福だった。  ただ、ひとつだけ懸念が。あいつだ。あの獣のような男。何とかあの方と奴を引き離さなければ。

倉庫として使っていた蔵を空け、そこに奴を連れてきた。ここなら屋敷も距離があり、窓も少ないから気づかれることもない。  腕は拘束したが、足は必要ないだろう。この怪我だ。 「……チアルートは?あいつには手を出すな」  当然、お前だけだ。

奴には罪がある。罪は償わなければ。だから、これは必要なことなのだ。  あの男がその昔、フリーの暗殺者として星々を飛び回っていたことはすぐにわかった。血で穢れた手であの方に触れていたのだ。忌々しい。  殴られても蹴られても、奴は大人しく従っているように見えた。これではつまらないと、誰かが水と食料に幻覚作用をもたらす薬草を混ぜようと言い出した。そのほうが奴を苦しめることができると。  想像以上の効果だった。あの方の姿を見たらしい奴の顔は、傑作だった。そして裏切られたときの絶望した目も。  ゾクゾクと、背筋を電流のようなものが駆け抜けていく。もっと奴の苦しむ顔が見たかった。もっと、もっと!  これは贖罪だ。だから、私のやっていることは正しいことなのだ。

瓶を抱いて中に入る。男はいつものように私の顔を見て目を見開いたが、すぐに視線を逸らした。私は瓶を振り、奴に見えるように胸の前で持った。 「細胞組織を破壊する液体が入っている」  これからやろうとしていることを思うと、口角が上がった。「これをお前の目にかける」  あの方と同じ苦しみを味わえ。  奴は初めて抵抗した。 「やめろ、やめろやめろ……う、ああああああああ!」  何かが焼けるような、嫌な匂いが辺りに立ち込める。痛みでのたうち回る奴を見ると、笑いが止まらなかった。  目を失くした男など用済みだろう。これで奴と取って代わることができる。あの方のそばに、ずっといることができる。

窓から差し込む星の光に照らされたあの方は、いつにもまして美しく見えた。どうやらつけられていたらしい。  あの方が横たわる奴の頬を、手の甲でそっと撫でる。まるで大切な宝物に触れるように。慈しみに溢れるその光景を見た瞬間、悟った。 ―そうか、奴はあの方の大事なものだった。そして、奴も誠実な信奉者だったのだ。それを私は傷つけてしまった。あの方と同じように、何度踏みにじられても決して光を失わない黒い瞳を、我々は壊してしまった。  なんと愚かしいことを。  私の気配に気づいたらしいあの方がゆっくりと振り向き、見えないはずの目を向ける。 「僧侶様」  ああ、こんな顔もなさるんですね。 「僧侶様、お許しくださ、」  血が飛び散る。離れていく胴体を見つめながら、意識は次第に闇の中へ沈んでいった。