現パロヴォルティリヴォル。
そういえば、こちらから面と向かって好意を伝えたことが一度もないことに、ティーリケは気がついた。
告白はヴォルフからだった。それから、目に見えるかたちで、あるいは耳から聞こえてくる音で、好意を伝え合うことは滅多ないないふたりだが、それでもヴォルフは時折、こめかみにキスをして「好きだ」と囁いた。普段は騒がしい彼が、まるで祈るように。
好意を伝えてこなかったのは、必要性を感じなかったからだ。ただ、いつもの小さな小競り合いとは違う、激しい言い合いを繰り広げたあと、ヴォルフがぽつりと漏らした言葉が胸に引っかかった。
「俺のこと、本当に好きなのか? もうお前がわからないよ」
彼は悲しそうな顔をしていた。そんな顔をさせるつもりはなかった。
翌日はふたりとも休みだったので、ティーリケはいつもより遅い時間にベッドから這い出た。
ヴォルフはすでに起きていて、朝食の用意をしていた。喧嘩をした日の翌朝は、必ずオーバーミディアムの目玉焼きだった。それがティーリケの最も好む舌触りであるということを、彼はよく知っていた。
「コーヒーあるぞ」
ヴォルフは昨夜のことなど忘れたとばかりにけろりとしていた。
「ベーコンは2枚でいいよな」
「ああ」
「はい、こっちはサラダ」
テーブルの上が艶やかに飾られていく。ティーリケは目玉焼きにナイフを入れた。白い膜から黄身がとろりと零れ落ちる。
「ありがとう」
「なんだよ、気味が悪いな」
ティーリケに睨まれ、ヴォルフは肩を竦めた。
「サニーサイドアップしか焼けないくせに。俺みたいな男、なかなかいないんだから、簡単に手放すなよ」
「そうだな」