中の人がお誕生日なので記念に書いたアレマト。
『…今度いつ会えるかわからないから先に渡しておくよ。ジョニーウォーカーのブルーラベル。大事に飲んでくれよ』
ほんの数日前に交わされた会話を思い出しながら、マットはボトルを撫でた。我が甥ながら、気の利くやつだ。彼は緩やかに頬を上げる。
ジョニーウォーカーのブルーラベルは、他のラベルの中でも特に高級品だ。原酒、水、樽に至るまで、最高の材料で作られている。これを送ってくるということは、それなりに敬意を払ってもらってはいるのだろう。
マットはボトルの蓋を開け、鼻を近づけた。芳醇な香りが、肺を満たしていく。
「お前も飲むか?」
ボトルを見つめたまま、マットはそう言った。振り返らなくても、背後に誰がいるかくらい、彼にはすぐにわかった。
「グラスを持ってくる」
キッチンへ向かうアレハンドロに、マットは声を上げる。
「俺も氷も入れてくれ」
アレハンドロはすぐに戻ってきた。氷の入ったふたつのグラスに酒を注ぐ。黄金の液体が室内灯を反射して揺れていた。「まさに命の水だ」とマットは笑い、ふたりはグラスを鳴らした。
「何を祝うためのものだと思う?」
マットはにいっと口の端を引き上げた。こういうときの彼は大概まともな注文をしてこないので、アレハンドロは眉をひそめる。
「今日は俺の誕生日なんだ。だからお前も祝ってくれよ」
さて、この無口なメキシコ人はどう出るか。興味がないと無視するか、はたまた形式的にでも祝ってくれるか。
しかし、アレハンドロの反応は意外なものだった。
「正確には昨日、だろ」
彼は自分の腕時計を指した。
「30分過ぎている」