モブ視点。映画版準拠です。

そのとき、僕はハイスクールが一緒で、近くに住んでいたロブとよくつるんでいた。ロブは楽しいやつだったけど、あまり素行がいいほうではなかった。僕らは何人かの仲間と一緒に毎夜パブを飲み歩いては、女の子たちを誘ったり、ギグのバンドを揶揄ったりして毎日を過ごしていた。

「この間の、十字路の角の店の、あいつら覚えてるか」

ロブが誰のことを言っているのかはすぐにわかった。前からちょくちょく名前は聞いていたけど、最近ボーカルが変わって、いつのまにかもうひとりメンバーも増えて、新しいバンドとして活動している。

ロブはそのバンドのボーカルの男に声かけて、こっぴどく振られたばかりだった。

「今日はハリソンの店にいるらしい」

「また会いに行くの?」

本当は、今夜はフリットの美味しい別の店に行きたかったけど、ロブは一度言い出したら聞かない性格で、僕は渋々彼についていった。

それから僕らはそのバンドを追っかけ回すようになった。彼らがパブでギグをすると聞けば、必ずその店へ向かった。彼らの音楽には特に興味がなかった。とにかく彼らの気を引こうとした。演奏中に野次を飛ばしたり、食事に呼んだり。しかし彼らはまったく靡かなかった。一度金髪の男に殴られそうになったけど、基本的には僕らをいないものとして扱った。

そのうちに、僕らはある賭けを思いついた。誰がいちばん始めにあの女王様たちを落とせるか。

闇雲に動いては駄目だ。作戦を考えなきゃ。まずターゲットを絞ったほうがいい。異国風の顔立ちのあの男は、人のあしらい方をよく知っている。金髪のやつは僕たちを警戒しているから駄目。背の高いギタリストは体格差がいいし、失敗して逆上させたら危ないかも。何より理屈っぽくて話が長い(この間も仲間のひとりが彼に捕まって、途方もない時間説教されたらしい)。

いや、ひとりいるじゃないか。大人しく、なんでも信じてしまいそうなやつ。バンドのベーシスト、ジョン・ディーコンを足がかりにして女王陛下に近づこう。

ギグを終えると、ジョンはいつものように素早くステージを降り、裏口へ向かう。

「ねぇ」

僕が肩を叩くと、ジョンは驚いたように振り返った。

「…何か?」

「あの、とてもいい演奏だったって伝えたくて」

声が震える。大丈夫、みんなのようにやれば。こんなこと、慣れてないからって今更あとには引けない。でも褒められたのに目の前の顔は特に喜ぶこともなく、怪訝そうに眉をひそめる。

僕のことはわからないはずた。ロブたちがステージ上の彼らを茶化すとき僕はなるべくはじのほうで目立たないようにしていたし、ジョンは演奏が終わるとすぐに帰ってしまうから。