マカジャマのクリスマス。
店を出ると、もう雪がちらつき始めていた。天気予報でも雪だと言っていたし、雲行きも怪しかったので、しっかりと着込んできてよかった。この分だと、今年はホワイトクリスマスになるだろう。 電車が動くまでダイナーで時間を潰そうかと考えていると、オーナーが車で送ると言ってくれた。 オーナーは二メートル近い大男で、顔は少々厳ついが、若い頃はさぞかし異性に好かれたであろう、その片鱗が今も残っている。店のほうには滅多に姿を現さないが、今日はクリスマス・イヴの夜ということもあり、客をもてなし、店員たちを労ってくれた。無口で愛想はないが、そういうところは抜け目がない。 「お前で最後か」 「はい」 助手席に乗ると、車は静かに出発する。 「店には慣れたか?」 「はい。みんなよくしてくれます」 返事をしながら、覚えてくれたことに驚く。確か、面接で一度会ったきりだ。この人は多分、店の全員の顔と名前を覚えている。 近くまででいいと言ったが、オーナーは家まで送ってくれた。到着すると、彼はおもむろにグローブボックスからプレゼントの袋を取り出す。 「メリークリスマス」 「ええ! でも……」 あたふたしながら袋を受け取る。とはいえ、何も用意していないし、店の客からもクリスマスプレゼントはもらったが、どれも下心ありきのものだ。彼も「そう」なのだろうか。 「何も準備してなくてすみません。それにあの、ぼくにはパートナーもいて」 「知ってる。そいつと一緒に暮らすための家を建てるために、今働いているんだろ」 どうやら、面接で言ったことをオーナーは覚えていたらしい。 「これは店のやつら全員に毎年配っていものだ。お前はゴミ出しでいなかっただろう」 オーナーに了承をもらって袋を開けると、中にはカシミヤのマフラーが入っていた。 「ありがとうございます。大事にします」 「もらったからには、来年もどんどん稼げよ」 オーナーはそう言うと、車を発進させ、雪の中に消えていった。 彼はどこに帰るのだろうか。誰と過ごすのだろうか。グローブボックスの中に、他にもプレゼントはあったのだろうか。 オーナーの家族の話や、パートナーがいるかどうかという話は、聞いたことがない。誰も聞こうとも思うはないし、なんとなく威圧感があるし、謎のままだ。 ただ、彼が寂しくないクリスマスを過ごせるように祈りながら、温かい家の中へと急ぐ。
「遅かったね」 シャワーから出ると、男はダイニングで新聞を広げ、ゆったりとコーヒーを飲んでいた。優雅なことだ。 「店のやつを送ってきた」 「そう。コーヒー入れる?」 ジャーマンが頷くと、男はキッチンに消える。テーブルのコーヒーはまだ湯気が立っており、きっと彼は、さっき起きたばかりなのだろう。 「今夜は積もるな」 男はぽつりと呟いた。 「プレゼントは?」 「ない」 「ひどいなあ」 「その代わり、今日は一日オフにした」 男は小さく笑うと、まだ乾きっていないジャーマンの髪に触れる。 「それで、俺の欲しいものをなんでも選ばせてくれるってことか」 「それでもいい」 「いいね。君も好きなものを選んでいいよ」 「どうせお前も何も用意してないんだろう」 「だって君、大概のものはなんでも持っているじゃないか」 意識していなかった疲労が、今になってどっと押し寄せてくる。この男のそばにいると、妙に気が抜けてしまってしかたがない。 「その前に少し眠ろうか」 「ん」 おいで、と手を引かれるままに、ベッドルームへ吸い込まれる。目を閉じると、車の窓から見えた白い雪が、瞼の裏にちらついた。