短いお話の詰め合わせ。
「イェーガーの目は綺麗ですね」
ぽつりと零した私の独り言を、彼は聞き逃さなかった。
「副官として非の打ち所がないお前が手を止めてしまうほどか?」
「そう、ですね」
あの蒼い瞳に、映る自分の姿を眺めるのが好きだ。水面のように、彼の瞳は静かで穏やかだ。この雪原の地獄において、それは私を安心させてくれた。
あの男も、彼の目が好きだと言っていた。同じ碧眼。
もし、私も蒼い瞳を持っていたら、やつと同じ景色が見えるだろうか。そうすれば、もっと。
「私はお前の目が好きだけどな」
彼の白い指が、私の目元を撫でる。触れたところから熱を持って、赤くなってないか気になった。
「森の木々の幹のような、暖かい色だ」
「そんなこと、初めて言われました」
彼は少し微笑んで、私の頬を撫でた。
あいつが笑ってる。
大尉に撫でられて、間抜けな顔で、尻尾降ってる犬みたいに嬉しそうに。
あいつの目が嫌いだった。枯葉のような色で見下ろすあの目が、雨でぐちゃぐちゃになった土の、泥のような色で見上げるあの目が。
あの目で見られると、何もかも投げ捨てたくなるような衝動に駆られた。だからあの目が怖かった。俺が俺でなくなるあの目が。
あいつが笑ってる。大尉に撫でられて、間抜けな顔で、見たことないくらい柔らかい目で。