現パロヴォルティリヴォル。
もうすぐ日が沈む。
赤く染まった家々や車を追い越し、列車は走る。何度もふたりで乗った。窓からの景色も見慣れたものだ。しかし今日はひとり、赤い街を見下ろして、深い溜息をつく。
あいつは気づいた頃だろうか。目立つように伝言を残したから、今頃慌てふためいて、片っ端から友人たちに居所を尋ねているかもしれない。大きな体を縮こませて、必死に電話をかけている姿を思い描くと、少しだけ気分が軽くなった。
街が遠ざかっていく。窓には不安そうな顔をした男が映っていた。出ていくと決めたのは自分なのに、ひどく胸がざわついている。
「あいつ来てる?」
液晶画面に映し出された名前は、見覚えのあるものではあったが、まさか本当にかかってくるとは思わなかった。彼の言うあいつとは、ステパンの知る限りひとりしかいない。
「ティーリケか? 来てないけど」
電話口の向こうで、ヴォルフはふうっと息を吐いた。
「何かあったのか?」
「出ていかれた」
「は?」
「家を出ていかれた」
「出かけているだけじゃないか?」
「鏡に伝言があった。真っ赤なやつがでかでかと」
鏡に伝言を残すとはどういう状況かさっぱりわからないが、ヴォルフの声は焦燥しきっている。
「番号知ってるのあんただけだし、どうせ弟くんもそこにいるんだろ? ちょっと先輩に電話するよう言ってくれない?」
「クラウスにか? 自分でやればいいだろ」
「……着信拒否されてる」