比較的平和なマカジャマ。

どちらかというと、人間関係に関しては淡白なほうだと思っていた。その場限りの関係性でかまわない。一夜の繋がりでいい。金で生まれ、翌朝には消えるような、弱く脆いもの。ナイフのように鋭利な言葉で駆け引きをしたところで、所詮は型通りの「お遊び」でしかない。大人になるとこんなことでしか楽しみを見いだせないのだから、随分つまらないことだ。我々はお互いに見下し合って、それを見せないよう愛想笑いを浮かべながら、でも心のどこかで軽蔑されていると感じていた。  だからこういうことには未だに慣れない。 「顔が赤い。熱でもあるのか」  男の青い目がじっとこちらを見つめる。それは本気で心配そうな色を宿していた。  白く、細い指が髪を掻き上げ、それから彼がゆっくりと近づいてきた。見るたびに綺麗な顔だと思う。これを毎朝眺める自分は幸せ者なのか、はたまた宗教画の天使のようで縁起が悪いのか。今のところはなんとも言えないが。  男は優しく額を合わせた。 「少し熱いな」  伝わってくる体温がひんやりと心地よい。ぐっと濃厚になる男の匂いで頭がくらくらとした。お前のせいで熱が上がったんじゃないかと思ったが、死んでも彼には言わない。

「言いたくなければいいけれど」  年下の友人はそう断ってから、もごもごと言いにくそうに口を動かした。 「何かあったのか?」 「どうして?」 「いや……。最近なんだか嬉しそうだから」  嬉しそう。友人の言葉を繰り返す。そうか、嬉しそうか。  仕事柄、感情は顔に出ないタイプだと思っていた。しかし、隣にいなくても考えてしまう。今は何をしているのだろうとか、朝のトーストを焦がしてしまったこととか、飲んでるコーヒーはきっと彼も好きな味だろうとか。  だからきっと、いつまでも頼りないなんてつい面倒を見てしまう年下の友人にさえ、感づかれてしまうのだろう。 「うん、実は紹介したい人がいるんだ」