MP36で配布しました、友人のきな子ちゃんが書いてくれた拙著『Season』の後日談を、本人の許可を得て掲載します! とても優しくて温かいお話です(^^)
ホールの寝室のクローゼットの中でかくれんぼをしたまま眠ってしまったエミリーは、ジョンストンがドアを開けた音で目を覚ました。 ふにゃ、とあくびをこぼしたエミリーは、その灰色の毛を逆立てて身震いする。涙も凍えそうなほど、冷たい冬の夜が容赦なく襲いかかってきた。慌ててクローゼットから飛び出すと、シーツにくるまって眠るホールのベッドにぴょんと飛び乗った。 ホールはシーツにすっぽりとくるまり、穏やかな寝息を立てていた。エミリーはもぞもぞとシーツに潜りこみ、ホールの逞しい胸に登ると、その上でのびのびと寛いでみせる。素肌から伝わるホールの鼓動が心地いい。
「…なんだ、これ。」 キッチンで水を飲んでから部屋に戻ったジョンストンはシーツ越しに不自然に膨らんだホールの上半身を見つめてぽつりと零す。怪訝な顔でシーツをひっぺがすと、ホールの胸でのびのびとくつろぐエミリーの琥珀の瞳と目があった。 「悪い子だ、エミリー。いつからいたんだ?」 ホールを起こさぬように小声で囁く。 ジョンストンは小さく笑い、エミリーを抱き上げる。エミリーが重かったのだろう。うーん、と僅かに眉間にシワを寄せたホールの腹からそっと降ろす 「人の恋人に夜這いだなんて。将来とんでもない悪女になるぞ、お前。」 意地の悪い台詞とは裏腹に、優しい手つきでエミリーの小さな顎を撫でる。ジョンストンの指遣いが気に入ったのか、エミリーも心地よさそうに喉を鳴らした。シーツを引き寄せたジョンストンの腕にエミリーがすり寄る。 「なんだ、お前も寒いのか?」 はやくいれて、と言いたげにエミリーはジョンストンの腕をくぐってシーツの中に潜り込もうとする。 「そんな上等なビロードのコートを着てるくせに?まったく、しかたないな。ほら…こっちに来い。」 無骨な指がエミリーの灰色の毛に覆われた頬をそっと撫ぜる。ビロードを思わせる柔らかな指触りに、ジョンストンは目を細めた。笑いながら横になると、布団に潜り込んできたエミリーを自分の胸元に引き寄せる。エミリーは小さい舌でジョンストンの剥き出しの鎖骨をちろちろと舐めた。 「やめろよ、くすぐったいぞ。」 ジョンストンが僅かに身をよじる。 精悍な顔立ちを引き立てる凛々しい眉を八の字にし、笑い声を噛み殺して、右手でエミリーの小さな頭を撫でる。左手はホールを抱き寄せていた。 「おやすみ。」
ジョンストンがエミリーを撫でる手つきがだんだんとゆっくりになっていく。しばらくするとその右手は動きを止め、代わりに静かな寝息が聞こえてきた。 ジョンストンと、その腕の中で眠るホールの、ふたつの寝息。 エミリーはその小さな三角の両耳を尖らせて、遠い遠い夏の夜の潮騒のように穏やかな彼らの音に耳をすます。 カーテンの隙間から外を覗き見る琥珀の瞳に映るのは雪解け水に濡れた、庭先の木々の蕾たち。 春はもう、すぐそこまで来ていた。
あとがき 猫ちゃん×ベッドに無限の可能性を感じるのは私だけでしょうか。そんな気持ちでSeasonを読んだ直後に勢いだけで書き殴りました。 四季×猫という最高にハッピーな組み合わせありがとうmimiちゃん。読んでいて自然と目尻が下がり頬が緩み、温かな気持ちになったのは久しぶりです。 Seasonをお手にとって下さったみなさんも、きっと私と同じように温かな気持ちになってくださったのではないでしょうか。共感していただければ幸いです。 ご清覧ありがとうございました! 令和元年 十月某日 きな子