マカジャマ。

「金持ちはこういうのが好きなのか?」  マーカスがそう尋ねると、男はつまらなそうに鼻を鳴らした。 「さあ」 「君は?」  ふたりが通された屋外プールには、ほぼ裸同然の姿の男女たちが優雅に泳いでいる。さながら熱帯魚の水槽のようだった。そしてプールサイドには、スーツを着こなした初老、あるいはそれ以上の年齢の男女が、ねっとりとした眼差しをプールに向けている。  マーカスの隣でマティーニを飲んでいた男は、二、三度咳をした。 「お前は俺が楽しそうに見えるか」 「あんまり」 「ならくだらんことを聞くな」  グラスを下げさせ、男はマーカスに向かって顎でしゃくる。「来い」ということだ。ここへは遊びに来たわけではない。  歩き出そうとした途端、ふらついた男を、マーカスは慣れたように支える。 「大丈夫か」 「くそ……、照明が強すぎる」  男は眉間を押さえ、何度か瞬きした。睫毛が濃い影を作り、より一層顔色が悪く見える。 「さっきの続きだけど」  再び歩き出した男を追いながら、マーカスは口を開いた。 「今度裸で泳いでやろうか」 「それで、プールでファックしようってことか」 「それもいいな」  案外楽しいかもしれない、と笑うマーカスに、男は小さくため息をついた。